放射線防護技術編
参考資料
 1895年にドイツのW.C.レントゲン博士によってX 線が発見されて以来、多くの分野で放射線の利用が可能になったのは、放射線の検出・測定の技術の進歩によるものです。
実際に行われる放射線の測定法と検出器の種類は多種にわたりますが、ここでは主にX 線領域に限定して説明します。

3. 放射線の測定 参考ムービーはこちら

1 放射線の測定原理

(1)放射線と物質の相互作用

 放射線は、物質を電離・励起する能力を持つため、物質を構成する原子と相互作用を起こします。この相互作用によって発生した二次物質、三次物質を検出することによって、放射線の量を検出できます。
 代表的な相互作用には、以下のようなものがあります。  
     
    ア 光電効果
      X 線の光子が原子と衝突した時、原子核の周りの軌道電子が、X 線光子の運動エネルギーを吸収し、原子の外に飛び出すことがあります。X 線自身が軌道電子に全エネルギーを与え消滅する現象を光電効果といいます。この時に飛び出した電子を光電子と言い、この光電子がさらに他の原子を電離します。放射線の測定では、この時に電離された陽イオンと電子を捕らえることによって、電気信号を得ます。
     
    イ コンプトン効果
      X 線の光子は、原子の持つ自由電子もしくは軌道電子と衝突し、光子の持つ運動エネルギーの一部を電子に与え、原子の外に飛び出します。光子自身は、衝突によって失ったエネルギーの分だけ低いエネルギーとなって散乱します(散乱する角度は、入射方向に対して0〜180度)。この時に飛び出した電子を、コンプトン電子、または反跳電子と言い、この電子がさらに他の原子を電離します。放射線の測定では、この時に電離された陽イオンと電子を捕らえることによって、電気信号を得ます。
      進路を変えられた散乱X 線は、他の物質と衝突を繰り返すことで消滅していきます。
     
    ウ 電子対生成
      エネルギーの高いX 線の光子が、原子の原子核の近くを通過するとき、原子核の近くの強い電場によって、一対(陰電子と陽電子)の電子となって光子エネルギーを消滅させます。光子が陰電子と陽電子に分かれて消滅するためには、電子の合計の質量エネルギーに相当する1.02MeV 以上のエネルギーを持っている必要があります。
      生成された陽電子は、即座に自由電子と結合し、2本の消滅γ 線を出して消滅します。このγ 線が、さらにコンプトン効果、光電効果を起こし、コンプトン電子、光電子を飛び出させます。生成された陰電子も、他の原子と衝突しながら電離を起こします。放射線の測定では、このようにして電離された陽イオンと電子を捕らえることによって電気信号を得ます。
     
    エ トムソン散乱など
      電磁波としての性質を持つX 線が、原子に衝突しても運動エネルギーを失わず、入射方向とは異なった方向に散乱することをトムソン散乱と言います。この時には、方向が変わるだけでエネルギーが変わらないため、ある方向では波長が強調し合い、ある方向では弱め合う現象が起きます。トムソン散乱が起きても、電気信号となる電子が飛び出さないため、測定系には寄与しません。


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